君が、イチバン。
幕間
幕間
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「あら、若咲さんは?」
長沼に絡まれて、椎那が席を立つのを見ていなかった秋吉が一条に問う。
「酔いを冷ましてるんでしょう、それより秋吉さん、分かっていると思いますが飲ませ過ぎですよ」
一条は淡々と秋吉に言う。彼女のグラスが少し空いたらさりげなく注ぐ秋吉は確かに無理強いはしていないが、ペース配分を考えていない。
「あは、一条君厳しいなー。いや、彼女面白くて。あまり表情を出さない子なんだけど、ノッてきたらハマる」
これから気をつけます、と秋吉は笑った。
それなりに話が盛り上がっていて、四宮と椎那が席を立った所で、気にとめた者はいなかったのだろう。
彼女の腕を掴んだ四宮の右手は一条のいる位置からしか見えない。
彼女を奪い取る様に連れて行った時の四宮の挑む様な目線を思い出して一条は微かに笑う。
…面白いですね?
一条にとって椎那という女性は非常に興味深かった。
足し算のない態度を取る女性は稀有だ。恋人がいるのかいないのか、その質問は彼女を試す為でもある。媚びる様なら即日クビにするつもりであった。従業員に女性を雇うと必ず問題が起こる。
自身に纏わる噂も大半が交際を断った従業員からのもので、一条にとって迷惑以外の何者でもない。
向坂の「久しぶりに女の子いれようー」という軽いノリもいつもなら一蹴するが、こりないなら適当に雇って向坂に現実を見せるつもりだったのだが。
どうやら、彼女は毛色が違うらしい。
あの飄々としていて、だがどこか人を寄せつけない彼女はここで上手くやっていくだろう。知っている女性とどこか違う、それが些細な事であったとしても、興味を引くには充分だ。
一条は残ったグラスを飲み干した。