君が、イチバン。
外に出ると秋の匂いがする空気を思いきり吸った。
…気持ち悪い。
やっぱりシャンパン飲むのやめたら良かった。だって仕方ないじゃない、飲むの初めてだったんだもん。
うずくまると、離れた場所から話し声が聞こえてくる。
声の先には携帯を片手に持つ一条さんがいた。いないと思ったら電話中だったんだ。仕事の話をしているみたいで背中を向けているから私には気付いていない。
顔小さいなー、足長いなー、とかぼんやりそのモデル体型を眺めているとふいにこちらに振り返った。
「…若咲さん?」
穏やかな声は重い頭に心地いい。
「…大丈夫ですか?」
一条さんはうずくまる私の背中をゆっくり擦ってくれた。
「ありがとうございます。さっきも、気にしてくれて助かりました。これは自業自得です、どうぞ中に入って下さいな」
秋吉さんのオススメを代わりに飲んでくれたお礼もついでに言っておいた。優しい人だよね、毒吐くけど。
「若咲さんは甘えられないタイプですね」
覗き込んで笑う一条さん。
「気分の悪い女性を放っておくと思いますか?それとも計算ですか?」
眼鏡の奥の切れ長の瞳はいつも微笑を絶やしているから分からなかったけど、綺麗に開くと淡い茶色をしている事に気付く。
結構な事を言われてるのに、あまり腹が立たない。
「それ聞いてどうするんです、滅茶苦茶好感度下がりますよ」
下げたいのだろうけど。
「ふ、若咲さんは本当に面白いですね」
眼鏡の奥の瞳は穏やかな口調とは反対にいつも冷めているのに、今は少し柔らかい。
やっぱり美形はズルい。