君が、イチバン。
それは四宮にとって少なからず衝撃だった。
二人の関係性が全く分からない、それだけではなく間違いなく店の顔である瑛太が迷いなく椎那を抱き上げて連れ去る様子はドラマの一場面の様にスマートであった。
一見強面で性格的にも面倒くさい井村を黙らせ彼の話に捕まった椎那を何の違和感もなく連れ出したのだから。そして、瑛太に抱き上げられた途端、安心したように眠った椎那。
何なんだ?
連れ出したい、と思っていたのは自分も同じだ。それをいきなり現れてさらって行った瑛太に腹が立って、四宮は何も考えず、瑛太の背中を追った。
「どこ行く気だよ、あんた」
外に出て、四宮は瑛太に噛み付く様に言葉を投げる。
「帰るんだけど?見て分かるでしょ」
余裕たっぷりに笑う瑛太に四宮は苛立ちを隠せない。
「そいつ、どこに連れてく気だ」
無意識に言葉になっていく声に、瑛太はそれでも薄く笑う。
「君には関係ないよね?美少年君」
「っ!馬鹿にしてんのか」
「してないよ?名前知らないからゴメンね?」
本当に申し訳なさそうな表情、掴み所のない男だと思った。その緩い態度に四宮はカァと頭が熱くなる。
「…椎那置いてけよ」
暴れ出しそうな拳を握りしめる。自分でも何を言ってるんだ、と訳の分からない感情がぐるぐる回る。
「なんで?これ以上酔わせてどーすんの?どーしたいの?自分で連れ出せないんでしょ?馬鹿なの?」
瑛太を取り巻く空気が一気に変わる。
「自分の感情すらコントロール出来ないガキが舐めた口きくんじゃねーぞ」
嘘みたいに冷めた瞳は、それでも確かに迫力があって、四宮は思わず黙った。それから瑛太はまたニコリと笑って「じゃーね」と背を向けた。
残された四宮はただ悔しかった。瑛太の言うとおりなのだ。
ーーー煙を吸い込んで、また吐く。一人の女の事だけしか考えられないなど、四宮には初めてだった。