君が、イチバン。


一時間の休憩があっという間に終わって私だけ休憩室を出る。まだ数分休憩時間のあるゆかりさんは、途中で高橋さんが休憩室に入ってくると、既婚者である高橋さんの夫婦生活の相談に乗っていた。高橋さん、なんかストイックなイメージついちゃったんだけど、意外に情熱的に愛を語り出している。ゆかりさんもすごいパワーだ。私は疲れた。
フラフラ通路を歩いていると、曲がり角で渦中の人物と鉢合わせた。ああ、たった今あなたの噂してました。


「休憩は終わりですか?」

噂はよくないよね、うん、だって出会っちゃいますもん。


「…?どうかしました?」

穏やかな笑み。掴めない人だ。雲のようにもくもくと頭上でこちらを眺めている。

「そういえば明日休みでしたね?今晩遅めのディナーでもどうですか?」

「へっ」

びくり、と体が揺れる。なんで、私を、誘いますか、


「いや、あの、」


どもる自分が情けない。


「皆さん焼肉が食べたいらしいですよ、直談判されましてね。時間のある方達で行こうと思いますが、若咲さんは忙しいですか?」

……んな、な、べ、別に勘違いなんてし、してないもんね!ドキドキしたけどただの心臓運動だから!心臓運動ってなんだ!


「二人で、の方が良かったですか?」


愉しそうに口の端を上げる、一条さん。
絶対確信犯だ。





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