私の兄は、アイドルです。
 



昨日も今日と劣らず暑すぎたもんだから、売店で買ってたんだ。

それを今日も有効活用してるワケで。




「はっ、はいぃぃぃ!」



澪が断るワケない。


完全に硬直しきった澪からうちわを受け取ったお兄ちゃんは……




「サンキュな!
撮影で使ったら返すから!」



本当に極上の笑顔で、
お礼を言ったんだ……







……ズキン……




そして

私になんて目もくれず
撮影に戻っていった。




……良かった、
変に話し掛けられなくて。

良かった。
うん、良かったんだよ。



紛らわしい事すんな
バーカ。

ちょっとビビったじゃんか……





──そうして撮影が終わると、澪にサイン入りでうちわを返したお兄ちゃん。





「ねぇ音遠……私、死んでもイィかも……っ」


「……良かったね?澪」




先刻から

ズキン ズキンと
痛む胸を抑えながら


真っ赤な顔をして泣く澪に




――あまりにも、
素っ気ない返事をしていた。






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