私の兄は、アイドルです。
──パタンと音を立てて閉まったリビングの扉は、
まるで私たち2人の間にそびえ立った壁みたいだ。
「ちがう……のに……」
ポツリ呟いた声も、
壁のせいで……
もう、届かない。
……違う。違うの。
嫌だったんじゃないよ?
覚悟なんて、とっくに出来てる。
お兄ちゃんへの気持ちに気付いた時点で……
お兄ちゃんと気持ちが通じ合った時点で……
覚悟、してたもん。
ただ、
ただ……
……怖かったの。
いつもとは違う、
“男性”としてのお兄ちゃんが……
…………怖かったの。
近親相姦というものが
この世の道理に反してるなんて
痛いくらいに分かってる。
想い合うだけでも、
重くて辛くて……
不安に押し潰されそうになるのに。
体の関係を持つなんて……
……考えただけで、怖くて怖くて仕方ない。
けどね?
お兄ちゃんとなら、
乗り越えていけるかもって。
お兄ちゃんとなら、
幸せになれるかもって。
私、思ってた。
──そうして翌日
お兄ちゃんは仕事に出たっきり──
──ソロコンサートが終わるまで、一度も帰って来なかった。
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