私の兄は、アイドルです。
だって
こんなに優しい声色じゃないから
こんなに優しい言葉なんて
掛けてくれないから
夢か、
だなんて思いながら
私の頭はフラフラと揺れる
けど
「音遠……良かった、
戻ってきて……」
「………」
私の耳には、
ゆっくりと近付く足音が聞こえてた。
一歩、一歩と距離を詰めるお兄ちゃんの足音を聞く度……
あぁ、やっぱりこれは夢なんだって頭で必死に考えていた。
──そうしないと……
心拍数が上がりそうだったから──
足音が、私の枕元でピタリと止まった
サラ……
お兄ちゃんの、長くて綺麗な指先が
私の頬に掛かった髪を退かす
──ドキン
嫌な、予感がした。
「音遠……」
目を瞑っていても、気配で分かる
何かが私の顔に近付いてる事が
嫌な、予感がした。
けど、
私は、
動けなかった。
ふんわりとしたシャンプーの香りと
柔らかな猫っ毛が
鼻先を掠めたと思った
その瞬間。
私の唇に、温かいモノがゆっくりと触れた。