私の兄は、アイドルです。
――その時、何故か一瞬豊さんの言葉が脳内をよぎった。
『音遠ちゃんって、
マジ愛されてるよな』
って。
……1秒?
いや、10秒?
時間にしてみれば大したことないのかもしれない
けど
私にとっては、何秒も何分も長く感じた。
ゆっくりと唇が離れる時
「ごめんな」
こんな言葉が聞こえた気がした。
ねぇ、お兄ちゃんはその言葉を……
……どんな想いで
どんな顔で言ったの……?
お兄ちゃんは
その大きな手のひらで
私の髪をサラリと撫でると……
パタンという扉の閉まる音と共に、静かに部屋から出て行った。
静かな室内に
トントンと廊下を歩く音が聞こえ、
そして別の部屋の扉が開く音が聞こえた瞬間……
……私の涙腺は、見事に崩壊した。
『音遠ちゃんって、
マジ愛されてるよな』
――やめて?やめてね?
愛されてない
愛されてないから
頭を振りながら否定する
けど
唇の感触は消えない
ポロポロと涙は落ちる
けど
唇の温もりは消えない