Camellia【短編】
椿
あたし達の間に言葉は無い。
「てるちゃん、今日も凄いねぇ。卒業、近いもんね」
卒業式を間近に控えた18の冬。式の練習の為学校に集まり、久しぶりにお昼ご飯を囲む。
友人の愛花が卵焼きをつつきながら向かい側の校舎を眺め、感心したように呟いた。
そうだね、と気の無い返事をしながら視線を同じ方に向ける。
あたしの教室の向かい側は職員室。
窓際の右から3番目。
通称てるちゃん
まだ23才の新米数学教師。
世で言うイケメン、なのだろう。
昔からモテてはいたけど、特に最近は3年女子の訪問が絶えない。
「あっ、てるちゃんこっち見た!!やっほー」
ねぇ、先生。
こっちを見ないでよ。
絡む視線に切なさを感じるのは
きっとあたしの浅ましい願い。
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