Camellia【短編】
静かな放課後の図書館。
誰も寄り付かない、難しい図鑑だらけの本棚に囲まれた窓際に1つだけある席。
ちょっとしたあたしの特等席。
2年生になったあたしは、放課後遊び歩く事にも飽きて静かにそこで勉強するのが日課になっていた。
風が気持ち良い5月。
本棚の森を抜けてたどり着いた特等席にはあたしじゃない誰かが寝ていた。
静かに上下する背中。
男子の制服ではない、ストライプの入った黒いスーツ。
フワフワ揺れる茶色の髪。
この春入ったばかりの松川輝樹先生、だった。
あたしは特等席を捕られた事に少しムッとしたけど何となく、帰るのも嫌でそっとカバンを置いて、今まで一度も開いた事の無い図鑑を手にとった。
古い本の匂い。
ページを捲る度にピリッと音がする。
花の絵が描かれるソレを床に座りながら眺める。
いつになく、楽しい時間だった。