魔念村殺人事件
「あの、石川さん。俺思い出したことがあるんです。全然関係ないことかもしれませんけど」


「どんなことかな?」


 陸は立ちあがった腰を下ろし、布団の横に座った。

 正信は何度か深呼吸をしてから、ぽつりぽつりと語りだした。


「あの日……最後に見た美紀の顔。この村に帰ってきてから、最後に見た美紀の顔はいつだったんだろうって考えてました。それでさっきようやく思い出したんです」


 そこまで云うと苦しそうな顔をして、正信は目を閉じた。

 風邪の熱で苦しいのか、それとも美紀の最後の顔を思い出し苦しいのか、俺には判断がつかなかった。


「花……俺達四人で花を摘んでいたあの日。俺は夢中で、美紀にプレゼントしたくて、花を摘みながら首飾りを作っていたんです。それで、ふと美紀の顔が見たくて顔を上げると、少し離れた場所に鈴音と美紀が立ってて……何かを話しているようでした。その少し後ろに真優が立ってて、真優が落ち着かない様子で、おどおどしているのが見えました。鈴音と話している美紀の顔は真剣で……寂しげな、何ともいえない表情をしていたように思います。それが最後に見た美紀だったんですよね……」


 鈴音と美紀はどんな会話をしていたのだろう。そして、その会話を聞いていたであろう真優は、何故落ち着かない様子だったのか。

 そこまで話すと正信は熱のせいか眠ったようだったので、陸はそっと立ち上がり部屋を出た。

 鈴音に訊いて、答えてもらえるだろうか。

 陸は薄暗い廊下を歩き、お茶の間に入って行った。


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