魔念村殺人事件
「復讐しか選べなかったんですか? 石川さんにそう訊かれたわね。でも私はうんともいいえとも答えられない。

 八歳の時だった――私は人の死を目の前で見たの。それは病気や事故なんかじゃなく殺人。元々ノイローゼ気味だった母は毎日死にたいと云っていたわ。お茶の間の隣りにある部屋、章吾が泊まった部屋は両親の部屋だったの。そこで両親は死んだ。壁や床は血だらけだったけれども内装を変え、今ではそんな面影なんて残ってない。祖母の人脈で内々に処理され、村の人達には母親が父親を道連れに、ただ自殺、とだけしか伝えていなかった。
 
 ――あの日、夜中に怖い夢を見て目が覚めた私は両親の部屋に行った。すると精神を錯乱させた母親が、父親を包丁で何度も何度も刺していたの。私は怖くて部屋の入り口で立ち尽くしたままだったわ。『瑞穂』と父親が私の姿を見つけ、名前を呼んだのを最後に動かなくなった。そして、母親は自分の身体を何度も刺し、母親も動かなくなったの。それから先は記憶が曖昧で、気付いたら祖母に育てられていた。

 私はそれから大きく考えが変わった。死に対する考え。皆はこんな私の暗い部分なんて知らなかったでしょう? 自分だけが今生きている意味も、これから生きていく意味も疑問に思えていたわ。でも十三歳、中学一年生の時、両親を立て続けに病気でなくした美紀と一緒に暮らすようになったの。美紀は心の綺麗な子だった。素直で思いやりがあって。私にないものをたくさんくれた。そして、美紀は両親を失っても生に対するベクトルが真っ直ぐだったわ。美紀と一緒に暮らしている間、私は死に対する考えも全て忘れられた。

 十八歳の時、村を離れる私に美紀は云ったの。『来年には春樹も村を離れ東京に行ってしまう。でも私が十八歳になったら、東京で瑞穂姉ちゃんと、また一緒に暮らしたい』って。それなのに、次の年美紀は行方不明になってしまった。それからの私は精神的に不安定だったわ。でも、春樹に続き、鈴音や真優が東京に出てきて何とか心を保ってたの。でもそれは幻想に過ぎなかった」

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