魔念村殺人事件
 章吾と春樹は長居したくない様子だった。

 陸は最後に外に出ると、すぐ車に乗り込んだ。

 そして、次の五軒目から七軒目も誰かが潜んでいるということはなかった。だが、七軒目の家には軒先にぶら下がっているはずの、鴉の嘴を見立てたお守りがなかったのである。

 始めにこの村を訪れた時は、どの家を見ても軒先に黒いお守りがぶら下がっていることに違和感を覚えたものだが、今ではこうして黒いお守りがない方が逆に違和感を感じる。

 
「ないな。この家にあったはずのお守りが……おそらく凶器だろう」


 陸は雨に打たれながら、軒先を見つめて呟いた。

 春樹と章吾も、陸に倣って軒先を見上げた。


「この家はおじいさんの一人暮らしだった。でも廃村になって、確か息子さん夫婦の家に引越したって俺の母親が云ってたっけ」


「それは俺も聞いたことがある。ここから犯人はお守りを盗んで凶器にしたのか。よし、行こう春樹、石川さん」


 八軒目は正信の家だった。ここにも誰かが潜んでいるということもなく、形跡すらなかった。そして、次は九軒目に章吾の家、十軒目に春樹の家、と探したが、犯人などいなかった。最後に十一軒目で村の一番外れにある瑞穂の家にも入ったが、三人は肩を落とすことになった。誰かが潜んでいることもなく、もちろん形跡もない。 

 これでこの村に犯人が潜んでいるという可能性はなくなったのである。
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