妖不在怪異譚〜船幽霊〜
「…あれ、ここは?。」
目を覚ました礼一は、救命ボートの中に横たわっていた。
起き上がってみればそこは海岸で、一面の砂浜が広がっている。
…あれは夢だったのか。
そこには白い客船の、影も形すらもない。
どうやら他のボートの乗員も一緒に着いたらしく、次々と砂浜に降り立っていくのが見えた。
「しかし、運良くもまあ、この海岸に流れ着いたものだな。。」
立ち上がろうとした彼の足元に、一枚の板切れが当たった。
…片側が白い、ペンキの板切れ。
おそらくはあの、海の中に消えていった客船のかけら。
「…そうか。お前が導いてくれたのか。」
礼一は静かに呟いて、その板切れを握りしめた。
『客船の紳士』終。