妖不在怪異譚〜船幽霊〜

「村はあの島にあるんです。」

ポッカリと浮かぶその島には、確かに人家らしきものが並んでいる。

「あんなとこに人の居る島があったかな。」

伸也はポリポリと顎を掻きながら、その島を見渡した。

「まあ、いいや。解ったよ、あの島まででいいんだね。」

頷く少女を尻目に、運転席のキーを回す。

…ブルル。

エンジンが唸りをあげて、ヨットは海の中へ進み出す。

波間をくぐり、そそり立つ岩場を回って、

やがて浅瀬にたどり着くと、伸也はヨットをそこに停めた。

…想像していた建物と、その村とは違っていた。

砂浜には木の枠に網が干され、所々に木造の小屋が見える。

コンクリートやアスファルトなど、現代的なものは一切ない。

呆気に取られている処へ、少女が近寄り、伸也の手を握った。

「ありがとうございました、海の神の使い様。このお礼は忘れません。」

「…え。海の神の使い、て君?。」

呼び止めようとしたが、少女は深々と頭を下げると、その浅瀬に降り立った。

しばらく小走りに歩いて、また再びこちらを向いてお辞儀をする。

…その光景を見つめながら、伸也はここが『現代』の島でないことを感じとっていた…。
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