妖不在怪異譚〜船幽霊〜
明かりはどこまでも、その船内を照らしていた。
決して明るいものではないが、その白さがまばゆさを感じさせる。
「それじゃあな、みんな。後でまた上に集まろう。」
礼一は突き当たりの角を曲がり、向かいにある自分の部屋へと向かった。
ドアノブに架けた『就寝中に』の札もそのままで、覗き込んでみても、やはり何も変わってはいない。
まるであの惨事が嘘だったかのように、全てがそのままだ。
…テーブルの上に置いた花瓶の花も、ベッドに投げ捨てた白いタオルも。
そして、床に放ったままの、大きな木のトランクも、あの時のままである。
「やはりあれは夢だったのかな…。」
彼は服を脱ぎ捨てると、おもむろにそのタオルで体を拭いた。
足下にあるトランクを開けて、新しい衣服に着替える。
「ふう。」
そう一息を突いて、ベッドの端に腰を掛けた。
少しクッションは固かったが、ここにきて初めて安堵のような安らぎを覚える。
「やはり生きてる、ていいことだよな。」
少し横になった矢先、いきなりに強烈な眠気が礼一を襲った。
…先ほどのものに似た白い光。
柔らかなそれに包まれて、礼一は意識が遠退いていった…。