復讐は復讐を、血は血を呼ぶ
「…なぁ、トッド」
大きな河に架かる石作りの橋の欄干に寄りかかると、彼の表情を見ずに問いかけた。
「なんです?サユベルさん」
「だからサーシャでいいと言ったじゃないか」
すると肩を竦ませ、
「そうでしたね…どうもその口調や雰囲気に負けてしまうんですよ…。まぁ、私の方が年下というのもありますし…」
「しかし今は15,6の女の子だ。お前が保護者の役を担っているんだから。それに肩苦しいのはよさないか?私たちは同志なんだから」
するとすまなさそうに頷いた。
「それで何です?」
私は彼から目線を外し、橋を歩く人々を見た。そこにあるのはただの交通人。ただ、橋を渡って個人個人の用に出かける者達。
ただ、それだけのこと。
彼らの中に声という声は無く、ただ虚しく靴音が石畳で高い音を上げるだけ。時々馬車が渡る―――ただ、ほんのそれだけのこと。
気にすることも無い、あまりにもいつも見かける光景。
今も昔も、変わらない。変わってしまったものもあるが、大抵は変わっていない。
そんな人々の中に、真っ赤な血が流れたら―――。
彼らはそんなこと知りもしない、ただ、私たちだけの秘密。
「どうしたんです?急に。何がおもしろいんです?」
不思議そうに私の顔をトッドが覗いてくる。声を上げて笑っていた。