復讐は復讐を、血は血を呼ぶ
「いや、なんでもない。気にするな。ところで、ミセス・ラベットはどういう人物なんだ?」
すると口元を緩ませ、
「優しい方ですよ。情の熱い…母親のような方です。彼女は未亡人なんですよ。一応女手一つで亡くなった旦那さんの遺したパイ屋を経営してますが…」
語尾をにごらせ間を置くと、
「……昔からあのパイ屋はまずくて…客足が遠のいています。しかもこの不景気。肉に手が届かなくて嘆いていますよ」
「それじゃ金に困っているのか」
彼は苦笑いをして頷いた。
「お前の正体を知らないんだよな?彼女、このまま生かしとくのか?」
光に反射した眼鏡を上げ、
「時と場合によっては考えますよ?」
「そうか…」
「まぁ、帰りましょう。雨も近いようですし」
そう言って上を指差した。
空には暗雲が立ち込め始めている。風も出始めていた。