復讐は復讐を、血は血を呼ぶ

 服に袖を通すと少し長いが着心地は悪くなかった。下に行くと2人は暖炉の傍にあるソファーでくつろいでいた。トッドは湯気の立つホットミルクを飲んでいて、ミセス・ラベットは早速縫い物をしていた。
「あら、少し長いくらいね。あとで丈縮めてあげるわ」
「ありがとう」
「ホットミルクを入れてあげるわ。ちょっと待ってて」
 そう言い残すと部屋を出て行った。トッドの前のソファーに座ると、
「復讐は、いつ始めるんだ?街で実験なんてやってたら、ヤード(警視庁)が動き出すぞ」
「そんな簡単にヤードは動き出しませんよ。たかが街の路地で死にそうな浮浪者が殺されてるだけのこと。逆に浮浪者は恐れて路地に溜まらなくなる。いいことじゃないですか、街人は安心して路地を通れるようになる」
 彼の顔に暖炉の光が影を揺らす。顔が半分影に隠れた彼の発言にとても不気味に思える。善い奴だ、彼は。
「そろそろ、始めたらどうだ?理髪店。もうそろそろ始めてもいいだろう?」
「そうですね・・・この不景気とは言え、金がある無いはかなり違いますからね・・・」
「あら、とうとうバーカーさんの重い腰が上がったようね」
 片手にマグカップを持って、ミセス・ラベットは安心したように、そして意地悪そうに言った。
 そしてドスンとトッドの隣に座ると、
「あなたが居なかった間、嫌な感じのイタリア男が「倫敦一の理髪師」とか言って、週に一回、市場の広場で店を開いてるわ」
「―――と言うと?」
 ミセス・ラベットは啖呵を切って、
「もうっ!物分りが悪いわねっ。イタリア男に勝負を挑んで、勝って名を知らせるのよ!じゃなきゃ店を出したって客は寄ってこないわよ!倫敦一の理髪師がしかもイタリア男にその名を獲られてたら恥でしょ!!」
 あ~と間延びした声を上げるトッドのでこを叩いた。
「明日、実はそのイタリア男が広場でやるのよ。早速行きましょ」
 どうやらきっかけはミセス・ラベットが作ってくれるようだ。トッドは苦笑いを私に向けてきた。
「これでバーカーさんが理髪店を開いてくれれば、私の店も名が知れるわ」
 まったくうまくいくものだ。怖いくらいに。

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