ばい
「アンタは結婚してるんだろ?」
「よく分かったね」
「指輪見えてるから」
この喫茶店に入って、すぐに気付いてた。
コイツの…
慎の左薬指には指輪がしてあった。
よく恋人同士がする指輪なんかじゃなく
夫婦がする指輪。
ペアリングとは違う意味の指輪をしてる。
「結婚してるのに乃亜に手を出そうとしたんだ?」
「……」
「最低だな」
自分のことを棚に上げてコイツを…
慎を攻める。
でも、俺はあの頃…
乃亜だけを見てた。
それは今も変わらない。
「…乃亜が望むなら離婚するよ」
「離婚って…」
簡単に言うな。
結婚って、そんな簡単なものじゃないはずだろ…?
ずっと一緒に生きていくって覚悟でするもんじゃねぇのか?
簡単に離婚なんて出来ないだろ…
「乃亜が…好きなのかよ?」
「好きだよ」
「……ッ…」
なんで慎は、こんなに真っ直ぐに俺の目を見て言えるんだ…
乃亜の気持ちを考えて俺は関係を終わらせた。
慎は結婚してるのに乃亜が好きだから乃亜が望めば離婚するって言う…
真剣な目をして。
その目はまるで俺のしたことが間違ってるって言ってるみたいで…
俺は目を逸らしてしまった。
そこからのことはあまり覚えてない。
気付いたらみたいな感じで自分のマンションの下にいた。
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