ばい


「この女、俺の子どもを妊娠したって言ってた」

「な…」

「でも、俺は避妊した」

「…事務所に連絡してくる」



富田さんはそう言うと楽屋から出て行った。



楽屋には俺と尚輝だけになったけど
お互い何も話そうとしなかった。


きっと尚輝は呆れてる。


乃亜が好きだとか忘れられないって言ってたのに
他の女が妊娠したって言い出したんだから。



「…仁」



しばらく続いていた沈黙を破ったのは尚輝だった。



「…俺はお前を見損なった」

「は…?」

「俺はお前がどんなに女遊びしても乃亜姉の所に戻るって信じてた」

「……」



尚輝の言葉に何も言えない。


俺だって思ってた。


乃亜が慎を忘れたら…


もう一度、俺の前に現れたら…


気持ちを伝えて離さないって思ってた。


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