先生

―――パチパチパチ


「先生、おめでとう!!!」


すると、奥から1人の女の人が私達の元に歩いてきた。

白いエプロンをしている所を見ると、多分祐輔さんの奥さんなんだろう。


「おめでとう、慎弥」


その女の人を見上げた先生は、笑顔なんだけどどことなく悲しげな表情をした。


「ありがとう。久しぶりだな、篠田」


女の人は少し間を置いてから


「……もう篠田じゃないのよ」


「ああ、そうだったな」


明らかに愛想笑いをしながら、遠い目をしていた先生。



この2人、何かあったんだ……



なんだか、妙に女のカンが働く。
こんな時は、鈍感で居たいのにな。

少しだけ世間話をした後

「楽しんでね」

という言葉を残して厨房に戻って行った。

そんな重い空気を壊すように


「先生、ケーキ食べよう」


と明るい声でおねだりしてみた。


いつもの顔に戻った先生は、口に生クリームを付けながらケーキを食べていた。



先生、本当は2人を見ているの逃げ出したい位苦しかったんだよ……



私はケーキを食べる先生に、心の中でそっと呟いた。


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