先生
先生の携帯のストラップは、この前の水族館デートで私が買ってあげた『イルカ』のストラップ。
こんなに、無防備に携帯を置いちゃ駄目だよね。
私は携帯を手に取り、手元からぶら下がるイルカを眺めていた。
「コラッ」
不意に背後から声が聞こえた。
とっさに身をすくめる。
真咲先生は、笑いながらドアを閉めた。
――――ガチャ
えっ?
「先生、なんで鍵閉めたの?」
先生は私の手から携帯を取り上げると、そのまま私を抱きしめた。
一気に先生の匂いに包まれて、頭がボーっとする。
「こうしたかったから…ダメ?」
そんな事されて、『ダメ?』なんて聞かれたら断れる訳無いじゃんか。
無言で首を振る私。
あまりにもギュッと抱きしめるもんだから、苦しくなってしまう。
「先生、苦しい……」
私は先生の腕からすり抜けた。
先生を見上げると、何だか切なそうな顔をして私に近づいてきて、もう1度抱き寄せた。
いつもと違う先生に、何だか嫌な予感がしてしまう。