先生

目の前に腰掛ける慎弥は、少し大人びたもののあの時と変わらずカッコ良かった。

「慎弥、久しぶりね。まさか、こんな所で会えるとは思わなかったわ」


「そうだな。妙子も変わらないな」


『妙子……』

そう呼ばれて、かすかに思い出すあの時の事。

苦い思い出なのに、それと同時にふわっと楽しかった時の事も蘇ってきた。


「ふふふ。私は変わったわよ。それより、慎弥は彼女出来たの?」


「……居る訳ないだろ。忙しいんだから」

そう言いながら、鼻を触る慎弥。

変わってないのね。
嘘をつく時の癖まで。


「ふ~ん。じゃあ、私にもまだチャンスは有るのかな?」


なんて、意地悪な質問をした。


―――コンコン


「は―い、どうぞ」


そう言いながら、慎弥はドアの方に歩いて行った。


全くタイミングが悪いわね。


ドアが開くと、女子生徒が立っていた。

照れているのか分からないけど、下を向きながら慎弥に用件を伝えていた。

少し小刻みに震えてるかと思うと、一瞬顔を上げすぐに走り去って行った。


あれっ?この子……


ああ、今日の昼休みに来た子ね。


「新庄!!」


そう言いながら慎弥も少し後を追いかけたけど、諦めた様子で戻ってきた。


< 308 / 444 >

この作品をシェア

pagetop