先生
目の前に腰掛ける慎弥は、少し大人びたもののあの時と変わらずカッコ良かった。
「慎弥、久しぶりね。まさか、こんな所で会えるとは思わなかったわ」
「そうだな。妙子も変わらないな」
『妙子……』
そう呼ばれて、かすかに思い出すあの時の事。
苦い思い出なのに、それと同時にふわっと楽しかった時の事も蘇ってきた。
「ふふふ。私は変わったわよ。それより、慎弥は彼女出来たの?」
「……居る訳ないだろ。忙しいんだから」
そう言いながら、鼻を触る慎弥。
変わってないのね。
嘘をつく時の癖まで。
「ふ~ん。じゃあ、私にもまだチャンスは有るのかな?」
なんて、意地悪な質問をした。
―――コンコン
「は―い、どうぞ」
そう言いながら、慎弥はドアの方に歩いて行った。
全くタイミングが悪いわね。
ドアが開くと、女子生徒が立っていた。
照れているのか分からないけど、下を向きながら慎弥に用件を伝えていた。
少し小刻みに震えてるかと思うと、一瞬顔を上げすぐに走り去って行った。
あれっ?この子……
ああ、今日の昼休みに来た子ね。
「新庄!!」
そう言いながら慎弥も少し後を追いかけたけど、諦めた様子で戻ってきた。