先生
「あの時の事、覚えてる?」
私は慎弥に話を切り出した。
あくまでも穏やかな口調で、忘れたかの様に……
「もちろん、覚えて居るよ」
慎弥は少し俯きながら私の質問に答えた。
私はカップを手に取ると、少しだけお茶を飲み込んだ。
「そう……」
「………」
そう答えた私に無言の慎弥。
そうでしょうね。
あなたがした事に、弁解の余地など無いのだから。
カップを置くと、私はお腹に手を当てた。
「産まれていたら、5歳よ」
慎弥を真っ直ぐ見ながら、私ははっきりと話した。
「……申し訳ないと思ってる」
先に視線を外したのは、慎弥の方だった。
「言う事は、それだけ?」
私は、笑顔で慎弥の顔を覗き込んだ。
5年の歳月の重み……
慎弥は、多分分かって居ない。
いや、分かるはずない。
あなたは、逃げ出したんだから……