先生
「慎弥に話したの」
一色先生はそう言った後、言葉を詰まらせた。
「……真咲先生は…なんて?」
口の中がカラカラになって、上手く話せなかった。
「慎弥は、産みたいならって言ってくれたわ。でも、両親は大反対した。
そして、無理やり……」
一色先生は、お腹を抱えたまま涙を流していた。
どうしてあげる事が最良なのか、全く頭が働かなかった。
「無理やり……?」
「病院に行かされ……子供を…おろした」
おろした。
そんな……
一色先生は産みたかったのに。
「産声もあげる事なく……この子は…居なくなってしまった」
一色先生は体を震わせながら、お腹を抱え込み泣いていた。
「そして、慎弥は色んな重圧に耐えかねて、『ごめん』という書き置きをしたまま、家から居なくなってしまった。
逃げたのよ、私を置いて。
慎弥は逃げて済むけど、私は心にも体にも傷を負ったわ。
そんな私を置き去りにして、あいつは逃げたのよ」
顔を上げた一色先生は、さっきまでの人と同じとは思えない鬼の様な形相に変わっていた。