先生
赤信号で止まるのがもどかしかった。
フロントガラスには、ポツリポツリと雫がついていく。
とうとう降り出した雨は、まるで私の心の中の様に徐々に激しさを増していった。
今朝は元気だったのに……
「いってきます」
そう言ったお母さんの顔が思い出され、胸が締めつけられた。
大丈夫だよね?
神様、どうかお母さんを助けて下さい。
押しつぶされそうな不安と戦いながら、私は何とか平常心を保ち続けた。
病院の建物が見え、みはっちゃんは急いで入り口に車をつけた。
「先に行きなさい。車を置いて行くから」
そう言われた私は、車から飛び出しナースステーションに走り込んだ。
「あのっ…母が倒れて!!!母は…」
思うように言葉に出来ない私に、看護婦さんは慣れた様子で
「落ち着いて。お母様のお名前は?」
「新庄 奈津子です」
その看護婦さんは、少し視線を落とし何か資料みたいなのをを見てから
「3階の303号室よ。あのエレベーターで……」
私は看護婦さんが言い終わる前に、軽くお辞儀をして走り出していた。
303号室
そう呟きながら、閉まりかけのエレベーターに乗り込み3のボタンを押した。