先生

「最後のって…」

私は引っかかっていた言葉を、一色先生にぶつけてみた。

「ああ、今日で終わりなのよ。保健の先生の代理」


だからか……

やけに、荷物が多いと思ったんだ。

「安心した?」

なんて無邪気そうに言われ、なんて答えて良いか分からなかった。

安心する……と言うか、もう関係ないんだから何とも思わない感じかな。

「別に…」

そう口を開いた時、ウェイトレスさんが飲み物を持ってきた。

一色先生は、置かれたコーヒーを少し飲むと、

「聞かないの?慎弥との事…」

「……もう、終わった事ですから」

聞きたくない。
2人の幸せ話なんか、聞かないよ。

でも、一色先生は構わずに話し始める。

あくまでも、穏やかに。
これが、勝者のゆとりと言うものなのだろうか?

「あの日、あなたのお家に行った後で私の家に来たのよ。ずぶ濡れのまま、傘を手に持ってね」


先生が、最後に家に来た日だ。


傘……ささなかったんだ。

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