色葉
「始めはただ羨ましかった。


男子3人を相手にして楽々と勝ってみせる大杉先輩に"戦いたくない"って言わしめる実力が。」


遠い目をして話す華を広之はどこか諦観したような面持ちで見つめている


「あの時は理解できなかった。特殊科の鬼才って言われ、いつもヘラヘラしていて、私が見てわかるくらい何もかもに手を抜いていて」


そこで言葉を切った。


傍目から見ても何か激しい感情を持て余しているのが見て取れる


広之は先を促すことなく、静かに華を見ている


「どこが鬼才なのか。何が凄いのか。何で大杉先輩は・・・・・・・・・・・・・・・。


私は許せなかった。」


無理はない。


2年の文化祭まで特殊科の鬼才って渾名されたあの会長はまったくと言っていいほど頭角を現さなかった


見る人が見れば普段の動きで実力がわかるようだが、あの男は意識して消してたようだし


「でも去年の文化祭で大杉先輩の言うことがわかった。あれは私では勝てないって見ただけで分かってしまった。


流れるようなフットワーク。鋭く無駄のない剣筋。周囲の人間全てを手玉に取るあの動き


あの時才能ってものを強く感じたよ」


才能か。でもこの子も十分天才の域なのに


なまじ才能があるだけに彼我の差に気がついたってことか。


「それと同時に恐怖も。鬼気迫るあの感じは狂気のように思えた。私はあぁはなれない。


正直副会長の話は嬉しかった。


生徒会に入れば部活の規定は免除されるからやめられるんじゃないかって。


それにここなら私は何か出来るんじゃないかって


でも私は部活をやめられず、生徒会でも何も出来てない」


弱々しい笑みを向ける華に広之は何も言わなかった


華も広之の言葉を求めてなかった。息を吸って話を続ける


「そして、時折見かけるだけだった会長と生徒会として仕事をしているうちに不安になった。


あのヘラヘラした顔でいつの間にか仕事の全てを会長がしている


不真面目で不謹慎でどうしようもない人だと思っていたら


私は何なんだろうな。なんでこんなに何も出来ないんだろうな」


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