桜の嵐


 花吹雪に隔たれて見つめ合っていたのは、一瞬。




「潤ー!何してんのよー」



 風が止み、坂の上から溝口君を呼ぶ声で二人我に返った。



「お~、今行くー」


 返事をした溝口君。

 無防備だった私の、心を荒立たせるその名。



 淳兄と同じ読みの。

 ‘ジュン’


 溝口君がその名を呼ばれる度、嫌でも意識せずにはいられなかったから。
 彼は違うんだと、その度に言い聞かせていた。

 蓋をするように、聞こえないフリをして。



 だから溝口君の事は、正直苦手だった。


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