桜の嵐


 だったらせめて、行き先くらい教えてくれても、いいと思う。

 ――のに、溝口君は背中を見せて黙ったまま。



 フワフワと風になびく栗色の髪を見上げ、小さく溜め息を吐いた。



 もう、帰りたい…


 最初で最後だから、なんて言わずにはっきり断ればよかった。


 早くも後悔し始めた時、不意に手を引いていた力がゆるんだ。



「―――ここだ…」



 立ち止まった溝口君は、一本の桜の樹を見上げて呟いた。



 なに…?


 訳も分からず首を傾げる。
 こちらに向き直った溝口君は、その髪のように柔らかくフワリと微笑んだ。



「………俺が美桜を、初めて見た場所」


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