桜の嵐
―――ああ、思い出した。
舞い落ちる桜の花びらの、下。
優しく儚く微笑んだ、淳兄。
忘れちゃいけなかったのに、どうして私は思い出せなかったんだろう。
「……美桜、昨日は――」
葉桜揺れる、坂道の途中。
気まずそうに後頭部を掻きながらこちらを見つめる溝口君を、見つめ返す。
「ごめんね、昨日は。つき合うって約束したのに」
微笑んだ私に、溝口君はホッとしたような笑みを見せた。
「お誕生日おめでとう。それから、ありがとう…私を、好きだと言ってくれて」
「美桜――」
「でも、」
何か言いかけた溝口君を、遮って続ける。
「ごめんね。私、好きな人がいるから――」