桜の嵐




 ―――ああ、思い出した。


 舞い落ちる桜の花びらの、下。


 優しく儚く微笑んだ、淳兄。



 忘れちゃいけなかったのに、どうして私は思い出せなかったんだろう。







「……美桜、昨日は――」



 葉桜揺れる、坂道の途中。
 気まずそうに後頭部を掻きながらこちらを見つめる溝口君を、見つめ返す。



「ごめんね、昨日は。つき合うって約束したのに」


 微笑んだ私に、溝口君はホッとしたような笑みを見せた。



「お誕生日おめでとう。それから、ありがとう…私を、好きだと言ってくれて」


「美桜――」
「でも、」


 何か言いかけた溝口君を、遮って続ける。



「ごめんね。私、好きな人がいるから――」


< 28 / 36 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop