桜の嵐


 小さく首を振る。



「ダメだよ。

 憎んで憎んで……俺をずっと、覚えていて」



 そっと手を離し、淳兄はベッド横の窓を開けた。
 清浄な春の空気が、煙の満ちたこの部屋を侵食するように流れ込んだ。



「本当の俺は、ここに置いていくから……」



 屈んだ淳兄の顔が近付き、私は自然と目を閉じる。


 初めてのキスは、なぞるように触れ合って、ちゅ、と音を立てて離れた。


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