桜の嵐
「入らない、けど…」
どうしてそんな事、知っているんだろう。
首を傾げると、溝口君は照れ臭そうに笑った。
「いつも、見てたから。教室の窓際で本を読んでるところ」
後頭部を掻きながらはにかむ溝口君の顔が、少し赤い。
満開の桜の下だから?
今のは、一体どういう意味……?
手の中の本を、胸元で抱きしめる。
言葉をなくした二人の間を、風が通り過ぎた。
舞い踊る桜の花びらの隙間から覗く、溝口君の姿。
茶色の柔らかな髪と同じ色した瞳が、揺れている。