Love Step

誤解

キィ……


リビングと廊下を隔てるドアが開く音がして雪哉は物思いから覚めて顔を上げた。


杏梨がドアの側に立ってこちらを見ていた。



「杏梨、おいで」


雪哉は立ち上がると手を差し出す。


杏梨は戸惑いの表情を浮かべながら近づいてきた。



「お腹が空いただろう?」


22時を回っていた。


コクッと頷く杏梨の手を取るとテーブルに着かせる。


席に着かせた雪哉はキッチンに入りミネストローネスープを温め、下ごしらえをしていたオムライスを作り始めた。


作っている間、杏梨は黙って座っていた。


杏梨は何を話せば良いのか分からず戸惑っていた。


ゆきちゃんの顔を見ると意識してしまって話せなくなる。

キスは唇が触れ合うだけではないのだと初めて知った。

驚いたけど嫌じゃなかった……。

身体の中が熱くなって……唇は熱をもったみたいになって……胸がジンとなった。

あの感覚がわたしがずっと怖がっていた事?

良く分からないけど、ゆきちゃんだから平気だったんだ。



目の前にオムライスとスープが置かれた。


「お待たせ 食べよう」

雪哉は席に着くと言った。


「い……いただきます」


杏梨はスプーンを手にして言ったが手を動かさない。


「杏梨?」


「ゆきちゃん……」


「食べてから聞くよ しっかり食べるんだ」


食べ終わるまで針のむしろの上にいるみたいな気分だった。


ゆきちゃんはどう思っているの?

きっとあきれ返ってるよね。

わたしはゆきちゃんが好き。

だから……ゆきちゃんじゃないと嫌……。

それでも心の片隅では怖くてさっきの事はなかったことにして欲しいと思っている。



杏梨はやっとの事で雪哉の作ってくれた夕食を食べ終えた。


雪哉は杏梨がしっかり食べてくれたのを見て安心した。


精神的に苦痛が伴うと杏梨の食欲は落ちてしまう。


事件後、数ヶ月間はほとんど口に出来ずに入院までした。





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