Love Step
杏梨は次々と頼まれる仕事を黙々とこなしていた。


床に落ちた髪の毛を掃除したり、お客様の飲み物のお伺いをたてたり、道具を洗ったりと仕事は山ほどあった。


結局はめぐみに頼まれた事だけでなく、他のスタイリストが頼む事も嫌な顔一つ見せずに杏梨は言葉少なげに仕事をした。


自ら進んで仕事をする杏梨を見てハラハラしているのはめぐみだった。


雪哉から他の男性客に近づけないように言われているからだ。


良くなって来たとはいえ、環境が変わればどうなるか分からないからだ。


雪哉が時々オフィスから出てきて杏梨の様子を見守っているのを見かける。


今も壁にもたれ腕を組み床に落ちた髪の毛を掃除している杏梨を見ている。


「杏梨ちゃん 驚くくらいしっかりやっていますよ?」


「あぁ……真面目な子だからね」


仕事に関して問題ないのは分かっている。


「本当に杏梨ちゃんが可愛いんですね」


めぐみがフフッと笑う。


心配なのは分かるけど過保護すぎるわね。


2人の関係を知らないめぐみはそれが兄のような気持ちだと思っていた。



* * * * * *



「よっ!ガキンチョ!」


床の掃除をしていると声がした。


下を向いていた杏梨だがそれが誰だかすぐに分かった。


ゆっくり顔を上げて声の主を見る。


ジーンズにTシャツ姿のラフなスタイルの峻だった。


「出現率高いよ……」


ボソッと杏梨は呟いた。


「お前、何してんの?」


「何って……掃除です」


手を動かしながら言う。


「ここでバイトしてんの?」


「そんな所です」


あいまいに答えてから掃除道具をしまいに行こうとする。


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