Love Step
「なに黙っているんだよ」


返事を返さない杏梨に少し苛立つ峻。


自分から告白した事はないし、振った事はあるけど振られた事はない。


女の子の扱いは慣れているはずなのに杏梨を前にすると余裕がなくなる。


「……だめ、付き合わないよ」


杏梨は峻を真っ直ぐ見つめて首を横に大きく振った。


「っ!」


峻は眉頭を寄せた。


「どうしてだよ!?」


「だって……わたしの好きな人はゆきちゃんだもん」


「お前の兄貴だろ?」


「本当のお兄ちゃんじゃないもん!」


峻に言われて必死の顔で言う。


「年だって離れすぎているだろ?」


「年なんてどうでも良いのっ!」


苛立った杏梨はとうとう席を立った。


乱暴に立ち上がり、ガタンとイスが音をたてる。


バッグをガバッと持つと峻を睨む。


「わたしにはゆきちゃんしかいないんだからっ!」


「……っ……どういう意味だよ!?」


「話したくない!」


ドアに向かい引き戸を大きく開けて一歩踏み出した途端に、杏梨はしたたかに鼻を打つ羽目になった。


「いらい(痛い)……」


「杏梨、大丈夫か?」


痛む鼻を擦っていると心配する雪哉の声がした。


「大丈夫か?見せて?」


「だいじょーぶ」


「そうか?化粧室、早く行ってこいよ」


杏梨の手にしているバッグを見て化粧室に用があると思ったらしい。


「あ……」


ゆきちゃん、お手洗いに行きたくて急いでいたと思ってる……?

家ではお手洗いに行くなんてなんでもない事でも、外で言われるとなんだか恥ずかしい。


杏梨は鼻よりも頬を赤く染めた。


「う、うん」


杏梨は帰る所だったと言えなくてあいまいな返事をすると部屋を出た。


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