Love Step
「あ、ゆきちゃん」


入って来た雪哉に気づき、杏梨は嬉しそうな笑みを向けた。


「黒田さん、順調そうですね」


オープンしてからだんだんと予約がいっぱいになってきている。


「ええ おかげ様で」


雪哉と琴美が話をしている間に、杏梨はテーブルのコーヒーカップをトレーにのせて部屋を出て行こうとした。


「あ、杏梨」


「え?」


呼ばれて振り向く。


「今日の夕食はいらないから」


「うん 了解」


「あら、じゃあ杏梨ちゃん 私と一緒に食べない?」


琴美は食事に誘った。


「え……」


杏梨がきょとんとした顔で雪哉を見る。


「いいですよね?雪哉さん」


一緒に食事をして仲良くなる。


それが琴美の今すべき事。


「あぁ もちろん 杏梨がそうしたいならばかまわないよ」


雪哉に促されて杏梨はコクッと頷いた。


「うん 一人で食べるのはつまらないから黒田さんと一緒に食べていくね?」



その夜、杏梨は琴美に美味しいと評判のピザハウスに連れて行ってもらった。


「ピザ大好きなんです♪」


熱々のチーズがとろけるピザをはふはふしながら口に運ぶ。


「気に入ってくれて良かったわ」


「生地もカリッとしていてたまらないです♪」


口の中が熱くなって氷がたっぷり入ったコーラをストローで飲む。


健次もピザが大好きだった……。


ツーッと涙がこぼれてきたのを不自然にならないように涙を拭う。



『姉さん 親父たちが居ないから今日はピザを頼もうよ』

元気な健次の声をどうしても思い出してしまう。




「もっと食べる?遠慮しないで良いのよ?」


お皿の上にはあと2切れしかない。


「もう良いですっ!お腹いっぱいでこれ以上入らないです」


両手を顔の前で振り、お腹がいっぱいだというようにジェスチャーをする。


可愛いのは認める……。

バカな健次……一度の欲望が人生を破滅に追いやってしまった。




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