Love Step
「ああ!もう高いヒールは履かないで欲しい」



高いヒールのせいで歩道橋の階段から落ちたと思っている。



「高いヒール?」



「そのせいで階段から落ちたんだろう?」



「ううん!違うのっ」


杏梨は寝たまま大きくかぶりを振った。



その途端、頭が鈍器で殴られたような痛みに襲われた。



「ぃたっ!……」



「杏梨!」



痛みで顔を歪めたのを見て、雪哉がコールボタンを押そうとした。



「だ、大丈夫だよ 急に動かしたから……」



そうだ……大事な事を忘れてた……。


歩道橋の階段から落ちたのはヒールのせいじゃない。


あの男の人がぶつかったせいだ。



「ゆきちゃん…… あのね?足を滑らしたせいじゃないの 確かにドレスに気を取られていたけれど……」



憶測でしかないけれど……。


階段でぶつかるほど人はいなかった。


あの人は意図的にわたしにぶつかった。



そう考えたら吐き気がこみ上げて来た。


自由の利く左手を急いで口元に持っていく。



「気分が悪いのかい?」



雪哉は医師の言葉を思い出し、今度こそコールボタンを押そうと手を伸ばした。



「ゆきちゃん……あの男の人はわざとわたしにぶつかって来たの」



「男の人?良くわからないな、とにかく今は目を閉じて」



杏梨は話したそうだったが雪哉は医師が来るまで安静にして欲しかった。



杏梨も話したかったがこみ上げる吐き気を抑えるのが精一杯だった。



雪哉に言われたとおり目を閉じた。


< 364 / 613 >

この作品をシェア

pagetop