Love Step
「あ、あの……お話中にごめんなさい……」



「杏梨ちゃん、来てくれて嬉しいわ」



琴美が笑顔で杏梨に近づいてくる。



「ケガの具合はどう?温泉に行ってたって聞いたわ」



「はい 腕も順調に治っているみたいです あの、これ……たいしたものじゃないんですけれど」



温泉宿の名前が入っている袋を琴美に差し出す。



「まあ、ありがとう!! うれしいわ」



琴美は大げさとも思えるような声で喜んだ。



そんな琴美を冷めた目で雪哉は見ていた。



「30分は予約が入っていないの コーヒーでも飲まない?」



「え……っと……、はいっ」



「杏梨、仕事の邪魔をしてはいけない コーヒーならオフィスで飲みなさい」



珍しく有無を言わさせない声に杏梨は不思議そうな顔をした。



「でも……30分は予約が入っていないって」



雪哉は心の中で重いため息を吐いた。



「杏梨、病院に予約を入れたんだ 先生が診せに来なさいと言っていただろう?」


それは本当の事だった。


店に寄れば琴美の所へ来るだろうと考え苦肉の策で病院へ予約を入れていたのだ。


「本当に?ゆきちゃん、何も言ってくれなかったら……」



「忘れていたんだ あと1時間だ 行こう」



「……うん 琴美さん また来ますね」



雪哉は杏梨の肩を抱くようにしてネイルサロンを離れた。



そんな後姿を見ながら琴美は眉を寄せた。



オーナーの様子がおかしいわね……。



琴美は手にしていた土産を机の上に置くと袋から出す。



細長い箱だ。



箱を開けてみる。



きれいなガラス細工の一輪挿し花瓶だった。



「まるであの子みたい 透き通っていて……壊れやすい」



琴美は箱にそれをしまうと袋に入れた。



「こんなものいらないのよ!」



琴美は苛立ちを花瓶にぶつけるように、両手で頭の上から袋ごと床に投げつけた。



箱の中で花瓶が割れた音がした。



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