Love Step
「ただいま」



玄関のドアを開けるといつもは飛んでくる杏梨の姿がない。



「?」



ドアを隔(へだ)てたリビングルームも電気が点いていなく暗い。



出かけているのか?



何か話し声がするのは近づくにつれてテレビだと分かる。



ドアを開け、電気のスイッチをつけるとソファーにいた杏梨がビクッと顔をあげた。



その顔で彩の事を知ってしまったんだなと思った。



目が真っ赤で泣きはらした目蓋は少し腫れている。



「なぜ泣いているんだい?」



泣いていた事を忘れていたかのように左手が動き目をこする。



俺は杏梨の目の前にしゃがみ目を合わせた。



「なぜ泣いているか教えてくれるね?」



彩のことではない場合を考えて聞く。



優しい杏梨は彩の引退を知ったら傷つくだろう。



知らなければ知らない方がいい。



俺を見つめる杏梨の目が潤み始めてしまった。



「何がそんなに悲しいの?」



「……彩さん……」



俺は心の中でため息を吐く。



やっぱりそうだったのか……。



「杏梨が気にすることじゃないよ 俺のせいだから」



杏梨を愛していたから彩の気持ちには応えられなかった。



「引退しちゃうなんて思ってもみなかったの……」



記事は彩が悪くなかったと後で直されたものの、一度悪女のレッテルをはられてしまっては清純派として売り出している彼女には辛いもので俺は引退もありだと思っていた。



彩の引退は杏梨にとってかなり衝撃的だったらしい。



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