Love Step
「分かってくれたのならこの話はもうおしまいにしよう」



雪哉はシュンとなってしまった杏梨の頭を撫でた。



愛情表現からなのだろうが、まるで子供にやるような仕草に思えて杏梨は気に入らない。



子供じみているが頬が膨らむ。



そっぽを向くとキッチンへ行こうとした。



「杏梨?」



歩きかけると腕を掴まれる。



「何が気に入らないんだ?男を追いかけて叱られたことか?」



「……」



腕を捕まれたまま振り向かない。



「杏梨?」



杏梨は下唇を噛みながら振り向いた。



「……ゆきちゃんはわたしの事を子ども扱いしているんだよ」



何も出来ない子供のように。



「どこからそんな……子ども扱いなんてしていないさ」



「してるよっ もうっ!今は話したくないっ!」



杏梨は苛立ち吐き捨てるように言うと自分の部屋へ行った。



「杏梨!」



呼ばれたが追いかけては来なかった。



部屋に入った杏梨はベッドの縁に腰をかけると両手で顔を覆った。



自分が悪いのは分かっているけど、イライラした気持ちが心の中を占めてぶつけてしまった。



何も考えずに追いかけたのは悪かったけれど、頭ごなしに言わなくてもいいのにっ。



頭を撫でられた事に腹がたっていたはずなのに、追いかけて咎められた事に腹が立っている。



追いかけてくれもしない……。


大声で泣きたい気分だった。



* * * * * *



感情を爆発させて自分の部屋に行ってしまった杏梨を雪哉は追いかけなかった。



ずっと抑えてきたものが出たか……。


子ども扱いをしたわけではない。


大事な人だから過保護になるんだ。


自分にとって大事な人だから。


腕も自由に利かず、イライラしたのだろう。


時にはもやもやしたものを吐き出したほうが良い。





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