Love Step

ぎくしゃく

頬に何かが触れる感覚に杏梨は身じろぎした。



「ふ……ぅ……ん」



考えすぎて明け方まで起きていた杏梨は眠くて目が開かない。



「杏梨、」



ゆきちゃん……!



雪哉の声にハッとして目を開けた。



「おはよう」



「ぉ……は……」



「仕事に行って来るよ 帰ったら話し合おう」



まだぼんやりした瞳がその言葉に力を帯びた。



そうだ!昨日、一方的に言っちゃったんだ……。



「行って来るよ」



雪哉は立ち上がると部屋を出て行った。



バカ杏梨っ!何も言えないまま行っちゃったじゃないっ!


情けなくなって枕に顔を埋めた杏梨だった。



* * * * * *



8月31日 学生は夏休みの最終日。



ふと琴美は杏梨の事を思いだした。



あの子も明日から学校なのね。



「あの、」



駅の改札を出ると女性に背後から声をかけられた。



「え?」



「伝線してますよ?」



それだけ言うと女性は行ってしまった。



琴美は振り返りふくらはぎを見る。



一直線にストッキングが伝線していた。



暑いんだから履いて来なければ良かった。



< 498 / 613 >

この作品をシェア

pagetop