Love Step
「そろそろ部屋に戻ります」



雪哉はグラスに半分ほど残ったビールをぐいっと飲みほして言ったのはそれから20分ほど経った時だった。



わたしは心の中でホッと安堵する。



さっきからあくびを噛み殺すのに苦労していたから。



「ご馳走様でした」



「2人きりの所、お邪魔して悪かったね?」



笑いながら言われてわたしは耳まで真っ赤になった。



最後にわたしたちはプロデューサーの東さんに挨拶をしてその場を後にした。



* * * * *



部屋のドアを開けてカードキーをドア横に差し込むと室内が淡い色に包まれた。



「杏梨」



部屋の中へ入ろうとすると背後から雪哉の腕に抱き寄せられる。



「今日は無理強いしてごめん」



耳元で囁かれてじんわり身体の芯が熱くなっていく感覚。



杏梨は雪哉の腕の中でゆっくり振り向いた。



「ううん……自信のないわたしがいけないの」



「いや、大人気なかった いつも杏梨の前では大人気ない振る舞いをしてしまうよ」



杏梨の肩に回っていた雪哉の腕は髪に移り、愛しそうに梳く。



髪を扱いなれているせいでとても気持ちがよく目を閉じたくなってしまう。



「……ゆきちゃん ありがと」



「何がだい?」



「……すべての事に」



すべての事に感謝したい気分だ。



杏梨はにっこり幸せそうな笑みを浮かべた。



問題だらけの自分を大きな愛で包んでくれる。



「大好き――」



だよ……を言う前にゆきちゃんの唇がわたしの唇に重ねられた。



何度も何度も角度を変えて繰り返されるキスに杏梨の身体は立っていられなくなるほどだ。



「っ……は……」



キスの合間に呼吸を整えようとするが、喘ぎ声しか出ない。



「そんな顔をしたらこの場ですぐに奪いたくなる」



そんな顔……って……どんな顔……?



再び甘いキスが唇に落とされて考えるのもままならなくなった。



抱き上げられベッドに横たえられた。



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