実話~運命~
「餌食うやろ?近くにいいとこあんねん。ちょい来い。」

それはあまりに強引だった。

少し離れたところにいたわたしの赤いコートの袖を掴んでグイグイと歩き始めた。


「餌て何やねん!!離して!!」

「騒ぐな!!俺が変なことしてる思われるやろ!!」

「立派な拉致やん!!」


そう言いながらもどんどん歩き進んだ。

そして到着したところは綺麗で見るからに高級そうな料亭だった。

わたしたちは6畳ほどの部屋へ案内されるとしばらくして着物を着た落ち着いた綺麗な女性が来た。


「これはこれは桜井様。ありがとうございます。」


「女将、見てみ。この痩せて飢えた犬ッころ。拾ってきたわ。なんか栄養つけたって。」


「まぁ!!桜井様ったら拾ったなんて。かしこまりました、お待ち下さい。」


そう言って丁寧に部屋を出て行った。

口をあんぐりあけて呆気に取られてるわたしに気付いたヤスさんはわたしを見ると大笑いした。


「なんやそのタヌキ顔は!!アッハッハッ!!」


「た、たぬき!!犬の次はたぬき!!なんやねん!!」


「自分、名前は?」


「これ、ナンパですか??」


「餌やるだけや。ナンパちゃう。で、名前は?」


「里美ですけど。桜井さんはなんでわたしに声かけたんですか?わたしより痩せた子なんてぎょうさんおるやん。」


「里美のその目や。冷たい目した女がおるな思てん。」


冷たい目…。

前にウィルに言われた言葉と一緒やった。

わたしまだ冷たい目してんのかな。

いや、きっと冷たい目になったんや。


「お前、何歳?まだ15、6くらいやろ?」


「なっ!!失礼な!もう18歳なっとるわ。」


「そりゃ見えんな。」


するとおひたしなどの山菜が運ばれてきたのでそれを食べた。

初めて来た料亭で食べたものはおいしいとは思えなかった。
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