実話~運命~
テーブルには茶碗蒸しやお吸い物が次々と運ばれてきた。

その中に松茸がゴロゴロ入ってるのがわかった。

初めて松茸なんて食べたのがこの日やった。


「里美はな、前の男が忘れられんのやなく、先に進むのが怖いだけや。お前はただの臆病者や。学校では目立ってこわがられてるタイプか?でも学校の中でもトップクラスのヘタレやな。」


ヤスさんはタバコに火をつけながら行った。

はいたタバコが空気になじんで消えていく。


「わかっとるわ。どうしようもないんよ。ほっといてや。」


「相手が悪いんやと思って自分を犠牲者やといつまでも思うなや。いい思い出だけ取っておけばええやん。そしたら、もしいつか会っても笑って話せるやろ??そんなもんや。」


もう何も言い返せなかった。

その通りやと思ったし何言っても負ける。


「もしかして当たったんか?俺適当に言ったんやけどな。やっぱ昔の自分と似てるからわかるんかもしれん。里美、一歩や。一歩踏み出すと世界は変わる。」


「一歩…ねぇ。」


「ほら見てみぃ。料亭なんて来ることないやろ?あんときお前が心底抵抗したらここには来れへんやった。これが一歩の初めにすればええやんか!!」


「せやけど…」


「うじうじすな!!ほら、ますその鮎焼きと掻き揚げ食え!!食ってからや、話は。」


そう言うとヤスさんも運ばれてきていた食べ物に箸を付け始めた。


掻き揚げと茶碗蒸しはすごくおいしかった。


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