magic voice




「あらぁ、花香ちゃん。」


アパートの外、ちょうど桜の木のそばで、大家さんが言った。

茶色いほうきを持って、左右に動かしながら。

ほとんど何も掃けていないけれど、彼女はどうやら気づいていない。


「あ、おはようございます」


大家さんに、花香はいつも通りの笑顔を向けた。

ふふふ、と、大家さんは微笑む。


「もう、花香ちゃんはなんて素敵な子なのかしら。それに比べてうちの娘なんて、あれ、まるで『ギャル』みたいなのよぉ」


50半ばの年齢の大家さんが口にした『ギャル』の言葉を、花香は少し面白く感じた。

いつも朝のこの時間に、大家さんに声をかけられては

何かしらのほめ言葉を口にされる。


それは本心からなのか。

それとも…

生まれた時から親を知らない花香を気遣っての事なのか。






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