べとべとに溶けるほど
気圧された私が裏口に回り込むと、思わぬ発見がありました。

勝手口の引き戸が、少しだけ開いていたのです。

先生、あれは貴方による悪戯だったのでしょうか。

あれを見て、人々は、ただの不用心と思うのでしょうか。

私は立場上なのか、そんなことは思いませんでした。

微かな期待に愚鈍な胸が高ぶるのとは裏腹に、どこか怪しげな誘惑を引き戸は醸し出しているように見えたのです。

私の全てを見透かしているように。

結果、私は危うさを感じながらも、誘惑に飲み込まれるがまま、引き戸に手をかけたのでした。

この時、すでに私の根底には、これまでとはまったく違った境地に通ずる感情、思想の元基が、行灯油のように染み渡り、種火が灯るのをそっと待っていたのかもしれません。
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