サクラ
その日のオンエアを終えた麻宮千晶の元に、編成局の人間がやって来た。
「うちのような局で、ああいう手紙を読み上げるって、どんなもんかね」
早速来たかと千晶は身構えた。
相手の目が険しい。
こういう事は、何年も番組を続けていればしょっちゅうだ。今では余り気にしないようにしている。
いちいち聞く耳を持っていたら、自分のやりたい番組なんて作れない。
千晶が言葉を返そうとすると、大越が近付いて来て、
「ちぃちゃん、良かったよ。早速リスナーから反響の問い合わせが来てる。
上手く、差出人をぼかしたな」
リスナーからの反響。
この一言で相手の相好が変わった。
現金なものだ。
「まあ、今回は上手く君が機転を利かせてくれたようだけど、判る人には、あの手紙の内容が刑務所から来たものだってすぐ判るからな。
これからも、どういう人間から手紙や葉書が来るか判らないんだから、取り上げるやつには充分気をつけてくれ」
予想通りの台詞を残し、彼は立ち去って行った。