サクラ



 その日のオンエアを終えた麻宮千晶の元に、編成局の人間がやって来た。

「うちのような局で、ああいう手紙を読み上げるって、どんなもんかね」

 早速来たかと千晶は身構えた。

 相手の目が険しい。

 こういう事は、何年も番組を続けていればしょっちゅうだ。今では余り気にしないようにしている。

 いちいち聞く耳を持っていたら、自分のやりたい番組なんて作れない。

 千晶が言葉を返そうとすると、大越が近付いて来て、

「ちぃちゃん、良かったよ。早速リスナーから反響の問い合わせが来てる。
 上手く、差出人をぼかしたな」

 リスナーからの反響。

 この一言で相手の相好が変わった。

 現金なものだ。

「まあ、今回は上手く君が機転を利かせてくれたようだけど、判る人には、あの手紙の内容が刑務所から来たものだってすぐ判るからな。
 これからも、どういう人間から手紙や葉書が来るか判らないんだから、取り上げるやつには充分気をつけてくれ」

 予想通りの台詞を残し、彼は立ち去って行った。




< 16 / 89 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop