サクラ
ラジオから代わり映えのしない音楽が流れ、起床を告げる。
慣れた動作で布団を畳み、手際良く洗面を済ます。
起床から十分もすれば朝の点検。
廊下の端から刑務官の野太い声が響き、そして点検が始まる。
点検終了とともに朝食が配られる。
私達に食事を配ってくれるのは、受刑者。
拘置所で雑務を担当する受刑者の刑期は、平均して三年以内の者が多いようだ。
そういった受刑者達が、私の前を何人も通り過ぎて行った。
我々のような収容者の面倒をなにくれと見なくてはならないから、並の受刑者では務まらない。
社会にいた頃の前歴を調べれば、まさかと思うような人間が少なくない。
彼らは、仮釈放が比較的一般の受刑者より多く貰えるようで、刑期の三分の一近くを残して出所して行く者も居る。
仮釈放が間近になった者は、髪の毛の長さを見ればすぐに判る。又、表情にも柔らかさが表れ、私などから見れば簡単に見分けられる。
丁度、このフロアを担当している受刑者の一人が、まさしくそれだ。
朝食を舎房の窓から入れながら、その柔和になった表情を見せ付けて行く。